「この現場は梁に貫通孔をあけてはいけません!」
と言われたらあなたはどうしますか?
「そんな事が出来るわけないだろ!」
とあなたも含めた9割以上の人が感じるはずです。
なぜなら
建物というのは「箱」だけ作れば良いのではなく、
スイッチを押したら照明が付かないといけないし、
蛇口をひねれば水も出る必要があるし、トイレの汚水も処理も必要です。
また、部屋の空調や換気も必要ですよね。
更には
あなたが現場で働いていれば普段はあまり気にならないかも
知れませんが、建物の事業性を高めるために階高を検討するのです。
つまり
建物の機能として、電気・衛生・空調などの設備関係を
経済性を考慮した階高の中で納めるために「梁の貫通孔」
は現実的には必要なのです。
しかし
構造的な面を考慮すると梁の貫通孔は「悪」でしかありません。
なぜなら
梁に「穴」をあけることで確実に弱くしているからです。
具体的には
梁の貫通孔部分が「応力集中」といって部分的に弱い部位があると、
本来耐えることの出来る荷重より低いレベルで損傷が起こったり、
断面が欠損していることで、せん断力が低下したり、剛性が低下します。
だから
梁の貫通孔による強度低下を最小限にするために、
貫通補強筋を適切に配置することが非常に重要なのです。
また
今回は実務レベルの細かい話をしてませんので、
「鉄筋コンクリート造配筋指針・同解説第5版 [ 日本建築学会 ]」の
該当部分を確実に読んで理解しておいて下さいね。
P.217
d .梁貫通孔補強筋
RC造の梁には本来貫通孔を設けるべきではない. 曲げモーメントおよびせん断力を受ける梁に貫通孔があると,孔の周囲には応力集中,その他2次応力が生じ,また,断面欠損によりせん断強度および剛性も低下する.しかし,空調・衛生設備等の貫通孔は, 建築計画上排除することは困難といえる.したがって,やむを得ず梁に貫通孔を設ける場合は,孔により失われる耐力・剛性の損失を検討し,鉄筋などの補強により必要な性能を保たなければならない.また,適切に施工されるよう貫通孔補強の要領や適用条件を設計図書:に特記する.鉄筋補強に代わるものとして,溶接金網によるものなども工夫されている. また,貫通孔の径や梁の応力状態によって使い分け可能な多種の既製品が市販されているので,その中から設計者の判断によって選択し設計図書に特記する.このとき.既製品ごとに適用範囲や孔際・孔上下の補強筋なども定められているので注意する.
貫通孔は,梁せいDの中心から上下にそれぞれD/6の範囲に設けることが望ましく,主筋の段数や貫通補強筋の大きさを考慮して,孔の上下のせいを決める. また,原則として隣接す
る貫通孔との中心間隔は孔径の3倍以上離し,梁端部には設けないこととする.やむを得ず貫通孔を梁端部に設ける場合には, 十分なせん断余裕度を持たせ,孔部分でせん断破壊しないようにしなければならない. なお,塑性ヒンジが形成されるおそれがない場合や,貫通孔が梁せいと比較してきわめて小径の場合など,梁端部に貫通孔を設けても支障がないと判断される場合には,設計者がそれらの諸条件を設計図書に特記する. また,直交の小梁の下端筋と開口補強筋が干渉しないか確認し,直交の小梁と貫通孔のあきを適切に確保する.基礎梁の人通孔などの大きい貫通孔は,梁せいの中央部に設けて所定の補強を行うのがよい.
連通管や設備配管用の梁せいに比べて小さな貫通孔は補強を省略されることも多いが,計算上の安全性を考慮して適用条件を設計図書に特記する.
解説図9.6 貫通孔の補強例
つまり
梁に貫通孔をあけることにより、応力集中、断面欠損による
せん断力や剛性の低下を招くため無い方が望ましいというのがセオリーです。
しかし
現実には、排水などのルートの問題、天井裏の懐と階高の経済性の問題など
梁の貫通孔をあけざるを得ない状況になっているのが現状です。
ここで
今回私が伝えたかったのは梁の貫通孔については、
「あけるのが当たり前」で「みんなあけているから問題ない」ではなく
「本来はあけるべきでは無いもの」なので「ルールを守って運用する」
という姿勢が大切だということです。
なぜなら
ルールと現場の実情という「理想」と「現実」に普段から挟まれていると
だんだんと正しい行動を起こせなくなってしまうからです。
あなたはどうでしょう?
こちらの記事を読んで自分の心に問い掛けてまてはいかがでしょうか?
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